停留精巣の診断と治療

泌尿器

停留精巣は男の子の約100人に1人に起こる頻度の高い病気ですが、発見が遅くなれば将来不妊症となる可能性もあり、両親を大変悩ませる病気の1つです。また、小児外科医や小児泌尿器科医でなけば正確に診断することも難しい病気です。できるだけ多くの停留精巣の子どもができるだけ早く小児外科の専門施設で診断や治療を受けるべきだと思いますので、今回記事を作成しました。

停留精巣とは?

停留精巣は生まれつき精巣の下降が不十分で精巣が陰嚢内に収まっていない状態のことで、小児泌尿器科の中では最も頻度の高い病気です。現時点では、停留精巣のはっきりとした原因は分かっておらず、世界中で盛んに研究が行われています。

生まれたての赤ちゃんは約5%が停留精巣ですが、生後6ヶ月までは自然に精巣が下降する(生理的精巣下降と呼ばれます)ので、生後6ヶ月時点で停留精巣の子どもは約1%です。生後6ヶ月以降に停留精巣と診断された子どもには治療が必要となります。

どのようにして見つかるか?

停留精巣はおむつ替えや健診で陰嚢を見た時に精巣がないことをきっかけに見つかります。多くの場合は、精巣挙筋の反射で精巣が上にあがってしまっていることが多いので、本当の停留精巣ではない場合も多く見られます。したがって、まずは小児外科医や小児泌尿器科医の診察を受けて、本当に停留精巣かどうか診断することが必要です。

診断方法

停留精巣は多くの場合は触診で診察が可能です。触診で精巣を触れて、陰嚢内まで下りた状態にならないものを停留精巣と診断します。また、触診で精巣が触れない場合もあり、非触知精巣と呼ばれ、これも停留精巣の1つです。停留精巣と間違えやすい状態として移動性精巣があります。停留精巣では治療が必要ですが、移動性精巣の場合には治療は必要ありません。

停留精巣と移動性精巣の判断が最も難しいところです。専門医の診察を受けて判断してもらう必要があります!

停留精巣の治療

停留精巣では、精巣を陰嚢内まで下ろして固定する精巣固定術が基本となります。精巣固定術は全身麻酔で行われます。場合によっては仙骨硬膜外麻酔も併用します。手術後は、精巣が再び挙上しないかや思春期に精巣がしっかりと発達するかなど長期にわたるフォローアップが必要です。

一方で、精巣が触れない非触知精巣の場合には治療方法が一部異なり、腹腔鏡を使用して腹腔内に精巣があるかどうかを確認します。精巣を腹腔内に見つけられた場合には精巣固定術を行います(1回で陰嚢内まで下すことが難しければ2回に分けて行うこともあります)。また、精巣の遺残組織が見つかった場合には将来悪性腫瘍になる可能性があるため摘出します。稀に精巣が生まれつき存在しない状態もあり、その場合は腹腔鏡で観察して手術を終了となります。

欧米ではかつて男性ホルモンを使用して精巣を陰嚢内まで下降させるホルモン療法が行われていましたが、現在は効果に乏しいため行われることはなくなりました。

治療の基本は手術(精巣固定術)です!

治療が必要な理由

主に停留精巣に治療が必要な理由として以下の4点が挙げられます。鼠径部や腹腔内は正しい位置である陰嚢と比較して温度が高いことが不妊症や精巣腫瘍などと関連しているのではないかと言われています。治療の遅れは、不妊症や精巣腫瘍のリスクを上げると言われています。

1. 将来不妊症となる可能性がある。

2. 将来精巣腫瘍のリスクとなる。

3. 停留精巣が精索捻転症を起こす可能性がある。

4. 陰嚢の見た目が左右非対称です。

停留精巣をそのままにしておいていいことは全くありません!

精巣固定術の手術時期

停留精巣の手術はいつ頃までに受けるべきでしょうか?

精巣固定術の適切な手術時期は生理的精巣下降が期待できない生後6ヶ月以降になります。欧米のガイドラインでは6ヶ月から1歳の間、遅くとも1歳半までに手術をするべきと言われていますが、日本を含め世界中どこでも、この時期に手術ができていない子どもの方が多いのが現状です。この時期をたとえ過ぎてしまったとしても診断された時点で手術を受けるべきです。日本のガイドラインには1歳から2歳と書いていますが、10年以上前の古いガイドラインですので、欧米のガイドラインを参考にするべきです。

受診の遅れから治療の時期が遅くなってしまうことが世界中で問題になっています。早めの受診を心掛けましょう!

まとめ

・停留精巣は陰嚢内に精巣がないことで発見される。

・生後6ヶ月以降で停留精巣の場合には、精巣固定術が必要となる。

・治療をしなければ不妊症や精巣腫瘍、精索捻転症などの危険性が高まる。

・欧米のガイドラインに準じて6ヶ月から1歳半の間に精巣固定術を受けるべきである。

参考文献

・ヨーロッパの停留精巣ガイドライン:Radmayr Christian et al. “Management of undescended testes: European association of urology/European society for paediatric urology guidelines.” Journal of pediatric urology 12.6 (2016): 335-343.

・アメリカの停留精巣ガイドライン:Kolon Thomas F. et al. “Evaluation and treatment of cryptorchidism: AUA guideline.” The Journal of urology 192.2 (2014): 337-345.

・日本の停留精巣ガイドライン:停留精巣診療ガイドライン 小児泌尿器科学会学術委員会編(2006)

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