先天性食道閉鎖症の診断と治療

新生児外科

本日は新生児期に緊急手術が行われる先天性食道閉鎖症について解説します。芸能人の中では、椎名林檎さんが先天性食道閉鎖症で手術を受けたことを公表しています。

先天性食道閉鎖症とは?

先天性食道閉鎖症は、赤ちゃんがお母さんのお腹の中で育つ過程で食道が途中で途切れてしまう病気です。生まれつきの消化管閉鎖症の中では比較的多く、新生児の約3000~5000人に1人の割合で発生し、男の子にやや多いと言われています。日本小児外科学会が行った調査では、日本では年間200人弱の先天性食道閉鎖症の赤ちゃんが生まれて手術を受けています。

先天性食道閉鎖症の病型分類としては、Gross(グロス)分類が一般的に使われており、A型~E型の5つに分類されます(下図)。C型が最も一般的で約85%を占め、続いてA型約10%、その他の病型は非常に稀です。

Gross分類(The Washington Manual of Surgeryから引用)

発症メカニズム

発生学の観点からは食道の不完全な形成と気管の分離異常が原因と言われていますが、原因ははっきりと解明されていないので予防することはできません。食道は胎生ごく初期に前腸から発生し、胎生第4週で前腸の腹側から呼吸器憩室が生じることで気管は形成されます。気管と食道の間に気管食道中隔が形成されて、気管と食道は分離されます。この気管食道中隔形成の過程に異常が起きた場合に気管と食道の分離がうまくいかずに先天性食道閉鎖症を発症します。

症状と診断

約半分が羊水過多胃泡の消失などの所見から出生前に超音波で診断(出生前診断)されますが、残りの約半分は出生直後から母乳やミルクが飲めなかったり、唾液が流れ出たりすることで先天性食道閉鎖症が疑われます。胸部レントゲンで経鼻胃管の挿入が難しく、Coil up signを示すことで診断に至ります。病型の分類には胃泡や消化管ガスの有無が重要です(A型とB型では胃泡や消化管のガスがありません)。

また、その他の奇形の有無の評価も重要です。約半数で何かしらの奇形を持っており、心奇形が最多です。以下、消化管の奇形、尿路系の奇形と続きます。特に奇形が多発するものとしてVACTERL連合があります(以下の7つの奇形の頭文字です)。

  • Vertebral anomaly:脊椎異常
  • Anal atresia:鎖肛
  • Cardiac defect:先天性心奇形
  • Tracheoesophageal fistula:気管食道瘻
  • Esophageal atresia:先天性食道閉鎖症
  • Renal anomaly:腎奇形
  • Limb defect:四肢異常

まれではありますが、先天性食道閉鎖症の約5~10%に先天性食道狭窄症が合併することもあります。多くの場合には、先天性食道閉鎖症の手術時や手術後に発見されます。

治療

根治するためには手術で食道を繋ぐ必要があります。多くは一期的手術(1回の手術で治療を終わらせる)が行われますが、心奇形などの奇形の合併がある場合には多期的手術(複数回の手術を行う)が必要です。一期的手術では、出生当日もしくは翌日に右開胸で食道気管瘻の閉鎖食道吻合を行います。多期的手術が必要な場合はまず胃瘻が作られることが多いです。近年では胸腔鏡手術も取り入れられつつありますが、行うことのできる施設は限られます。

合併症

手術直後の合併症としては、無気肺肺炎気胸などの呼吸器合併症や食道吻合部の縫合不全気管軟化症などがあります。また、長期的には吻合部狭窄食道気管瘻再開通胃食道逆流症胸郭変形などが問題なとなります。

気管軟化症を合併する場合には気管切開や大動脈固定術が、吻合部狭窄が出た場合には内視鏡的にバルーン拡張術が行われます。内服薬でコントロールの難しい胃食道逆流症に対しては噴門形成術(Nissen法など)が行われます。

予後

先天性食道閉鎖症の予後は、1996年にSpitzによって発表された分類によって大まかに分類されます。以下の表に示すように、出生体重重症心疾患(治療が必要なもの)によって生存率が決定され、出生体重1500g以上で重症心疾患がない場合には、多くの子どもが後遺症を残さずに健康な子どもたちと変わらない生活を送っています。

Spitzのリスク分類(1996年)

参考文献

・標準小児外科学 第7版

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